「おい、そこの新人。“燃やす燃料”だけ発注して、”点火装置”の発注を忘れた部署がどうなるか、言ってみろ」
ビタミンB部長が、伝票の束で机を叩いた。9月も半ば。社内食堂には新米が入り、さつまいもの煮物が並び、給湯室には誰かが持ち込んだ栗が転がっている。エネルギー代謝部の受注量は、この時期に跳ね上がります。
そんな折、相談窓口に届いた声がこちらです。
- 食欲の秋で食べる量が増えたのに、なぜか前より疲れやすい
- ビタミンB1のサプリを飲んでいるが、効いている気がしない
- サプリの成分表に「ベンフォチアミン」と書いてある。普通のビタミンB1と何が違うのか
3つ目が、この記事の本題です。ビタミンB1には複数の”形”があり、形によって体への入り方が違うとされています。ところが日本語で書かれた解説の多くは「ビタミンB1」でひとくくりにしていて、ラベルに並ぶカタカナの違いを説明してくれません。
ここでは、B1の形の違いを整理したうえで、秋に増える糖質が何mgのB1を追加で要求するのかを実数で出します。
なぜ秋にビタミンB1の消費が増えるのか
先に仕組みからいきます。ビタミンB1(チアミン)は、糖質をエネルギーに変える工程の補酵素として働きます。
食べたごはんは、ざっくり次の順で処理されます。
| 工程 | 何が起きるか | ビタミンB1の出番 |
|---|---|---|
| ① 消化・吸収 | でんぷん → ブドウ糖 | なし |
| ② 解糖系 | ブドウ糖 → ピルビン酸 | なし |
| ③ アセチルCoAへの変換 | ピルビン酸 → アセチルCoA | ここで必須 |
| ④ TCA回路 | アセチルCoA → エネルギー | 他のB群も関与 |
ポイントは③です。ピルビン酸をアセチルCoAに変える酵素は、ビタミンB1が変化した形(チアミンピロリン酸・TPP)を補酵素として要求するとされています。
つまりB1が足りないと、②までは進むのに③で渋滞します。行き場を失ったピルビン酸は乳酸のほうへ流れ、だるさや重さにつながる可能性があると考えられています。
> 部長の解釈:「糖質は原材料、B1は決裁印だ。原材料だけ山ほど積んでも、決裁印がなければ工程は止まる。止まった在庫が乳酸だ」
そして重要なのが、必要量が「食べた糖質の量」に連動して増えるという点です。食事摂取基準では、ビタミンB1の必要量はエネルギー1,000kcalあたり0.45mgを基準に算定されているとされています。
食べる量が増える秋は、それだけでB1の請求書が膨らむ季節ということになります。
秋の「ごはん大盛り」は、B1を何mg分要求するのか
ここを数字にします。秋に増えがちな3品を、控えめに見積もって足してみます。
| 増えた分 | 目安量 | おおよそのエネルギー |
|---|---|---|
| ごはんを茶碗1杯多く | 150g | 約234kcal |
| さつまいも(蒸し) | 100g | 約130kcal |
| ゆで栗 | 5粒(約80g) | 約120kcal |
| 合計 | — | 約484kcal |
これを先ほどの0.45mg/1,000kcalで換算します。
> 484kcal ÷ 1,000 × 0.45mg = 約0.22mg
1日あたり約0.22mgのビタミンB1が、追加で必要になる計算です。推奨量が男性1.1〜1.2mg/女性0.8〜0.9mgであることを踏まえると、推奨量の2〜3割にあたる上乗せになります。決して無視できる幅ではありません。
ところが、ここに秋最大の落とし穴があります。
| 食品 | 100gあたりのビタミンB1 |
|---|---|
| ごはん(精白米) | 0.02mg |
| ごはん(玄米) | 0.16mg |
| さつまいも(蒸し) | 0.11mg |
| ゆで栗 | 0.17mg |
精白米のごはんは、糖質を大量に持ち込むのに、B1をほとんど持ってきません。茶碗1杯(150g)で増えるB1は約0.03mg。要求される0.1mg前後には全く届かない計算になります。
> これが「たくさん食べているのに疲れる」の正体の一つと考えられます。増えているのは仕事量(糖質)だけで、決裁印(B1)は増えていないからです。
ちなみに玄米に替えるとB1は8倍になります。白米か玄米かの差が、この季節に効いてくる理屈です。
ビタミンB1が不足したときのサイン|脚気・ウェルニッケ脳症は受診の領域
ビタミンB1が足りない状態が続くと、次のようなサインが出ることがあるとされています。
- 疲労感・だるさが抜けない
- 食欲が落ちる
- 足がむくむ、重い
- 集中が続かない、イライラする
さらに不足が進んだ状態として、脚気(かっけ)やウェルニッケ脳症が知られています。
⚠️ ただしこれらは医療機関で診断・治療されるべき病気です。手足のしびれ、強いむくみ、歩行のふらつき、物忘れなどがある場合は、サプリメントで様子を見ずに受診してください。この記事は診断や治療を目的としたものではありません。
なお、アルコールを日常的に多く飲む方はビタミンB1が不足しやすいとされています。アルコールの分解にB群が使われるうえ、腸からの吸収も妨げられる可能性が指摘されています。秋の飲み会が増える時期は、この点も併せて意識したいところです。
【本題】ビタミンB1・ベンフォチアミン・フルスルチアミンの違い
さて本題です。サプリや医薬品のラベルに並ぶ名前は、すべて「体内でビタミンB1として働く」点は同じですが、そこに至るまでの入り方が違うとされています。
| 名称 | 分類 | 性質 | 主な使われ方 |
|---|---|---|---|
| チアミン塩酸塩 | 通常型 | 水溶性 | サプリ・強化食品 |
| チアミン硝化物 | 通常型 | 水溶性 | サプリ・強化食品 |
| ベンフォチアミン | 誘導体 | 脂溶性寄り | サプリ |
| フルスルチアミン | 誘導体 | 脂溶性寄り | 医薬品 |
| ビスベンチアミン | 誘導体 | 脂溶性寄り | 医薬品 |
違いの核心は、腸からの入り方にあります。
通常型(チアミン塩酸塩・硝化物)は水溶性で、腸の細胞に入るときに専用の輸送体(運び役)を使うとされています。運び役の数には限りがあるため、一度に大量に摂っても吸収は頭打ちになりやすいと考えられています。「水溶性だから余った分は尿に出る」と言われるのは、主にこの性質を指しています。
誘導体(ベンフォチアミン・フルスルチアミンなど)は、B1に脂に馴染む部分をくっつけた形です。運び役に頼らず腸の細胞膜を通りやすく、体内に入ってからチアミンに戻って働くとされています。
> 部長の解釈:「通常型は正面玄関から受付を通して入る方式だ。受付は1つしかないから、行列ができれば入れる人数は決まる。誘導体は壁をすり抜ける方式。受付の行列とは関係なく入れる、というわけだ」
🚨 ただし、表の右端を必ず見てください。
フルスルチアミン・ビスベンチアミンは、日本では医薬品の成分です。市販のサプリメントに入っているものではなく、医療用や指定医薬部外品などの製品で用いられます。「誘導体のほうが良さそうだから」と自己判断で医薬品を選ぶのではなく、症状がある場合は薬剤師・医師に相談するのが筋です。
一方のベンフォチアミンは、サプリメント成分として流通しています。サプリの棚で誘導体を探すなら、実質的にこの名前が目印になります。
にんにく×豚肉が理にかなっている理由(アリチアミン)
この「誘導体」という発想は、実は日本のにんにく研究から生まれたとされています。
にんにくを刻んだりつぶしたりすると、アリシンという成分が生じます。このアリシンがビタミンB1と結合してできる形がアリチアミンです。1950年代の日本の研究で見出されたとされ、後の誘導体開発(フルスルチアミンなど)につながったと言われています。
つまり——
> 豚肉(B1が豊富)+ にんにく(アリシン)という組み合わせは、成分の設計としても筋が通っていることになります。
食卓に落とすと、こうなります。
- にんにくは刻む・つぶすとアリシンが生じやすいとされる(丸ごとより効率的)
- 玉ねぎ・長ねぎ・にらにも類似の含硫成分が含まれる
- 豚肉のしょうが焼きよりも、にんにく入りの豚肉炒めのほうがB1の観点では理にかなう
「スタミナ料理」と呼ばれてきた組み合わせが、経験則として先にあり、後から仕組みが説明されたという順序です。
秋の食卓でビタミンB1を確保する
B1を多く含む食品を、量とあわせて整理します。
| 食品 | 目安量 | ビタミンB1 |
|---|---|---|
| 豚ヒレ肉 | 100g | 約1.32mg |
| 豚もも肉(赤身) | 100g | 約0.96mg |
| うなぎ(蒲焼) | 100g | 約0.75mg |
| たらこ | 50g | 約0.36mg |
| 玄米ごはん | 150g | 約0.24mg |
| 枝豆(ゆで) | 50g | 約0.12mg |
| 精白米ごはん | 150g | 約0.03mg |
※日本食品標準成分表(八訂)の値をもとにした目安です。調理法・部位で変動します。
ここで冒頭の計算に戻ります。秋に増えた糖質約484kcalが要求するB1は約0.22mgでした。
> 豚ヒレ肉なら、約17g分で埋まります。
薄切り1枚にも満たない量です。「秋に食べる量が増えたぶんの点火装置」は、思っているよりずっと小さな追加で足りるという結論になります。
問題は、その17gを実際に足せているかです。増えたのがごはん・いも・栗だけなら、B1はほぼ増えていません。
現実的な打ち手を挙げます。
1. 主食の一部を玄米・胚芽米に替える(B1が約8倍)
2. 豚肉をにんにく・ねぎ類と一緒に調理する(アリチアミンの発想)
3. 糖質を増やした日は、B1を持つ食材も同じ皿に足す(増やすなら両方)
サプリメントという選択肢
食事で足りている方に、サプリメントは必要ありません。ただし現実には、外食が続く週、飲み会が重なる時期、自炊が止まる繁忙期があります。
そうした日の補填として選ぶなら、次の点を比較すると判断しやすくなります。
- B1の”形”の表記:チアミン塩酸塩/チアミン硝化物/ベンフォチアミンのどれか
- B群がまとめて入っているか:B1単体よりB群として摂るほうが代謝の工程は回りやすいとされる
- 1粒あたりのmg表記があるか:「ビタミンB群配合」だけで数値がないものは比較できない
- 1日あたりのコスト:数ヶ月続けられる価格帯か
なお、ビタミンB1は水溶性で、通常の食事やサプリメントの範囲で過剰症が問題になることは少ないとされ、食事摂取基準でも耐容上限量は設定されていません。ただし製品の表示量を守るのが前提です。通院中の方、服薬中の方、妊娠中の方は、事前に医師・薬剤師にご相談ください。
まとめ:燃料の発注を増やしたなら、決裁印も増やせ
- ビタミンB1は糖質をエネルギーに変える工程の補酵素。足りないとピルビン酸が乳酸へ流れ、だるさにつながるとされる
- 必要量はエネルギー1,000kcalあたり0.45mgが算定の基準。食べる量が増える秋は、それだけで請求書が増える
- 秋に増えがちなごはん+さつまいも+栗(約484kcal)が要求するB1は約0.22mg=推奨量の2〜3割
- ところが精白米ごはんのB1は100gあたり0.02mg。糖質だけ持ち込んでB1は持ってこない
- 埋めるのに要るのは豚ヒレ肉なら約17g。追加量そのものは小さい
- B1には形の違いがあり、通常型は輸送体経由で吸収が頭打ちになりやすい/誘導体は膜を通りやすいとされる
- 🚨 フルスルチアミン・ビスベンチアミンは医薬品成分。サプリで誘導体を探すならベンフォチアミン
- にんにく×豚肉(アリチアミン)は、経験則が後から仕組みで裏づけられた組み合わせ
「以上だ。食欲の秋とやらで受注量を勝手に増やしたのは貴様らだ。増やしたなら、決裁印も同じだけ発注しろ。ごはんをおかわりするたび、この部署の残業が増えているのだと、その脳に刻んでおけ。……よし、今夜は豚肉を食え。にんにくも刻め。解散!」
しびれ・むくみ・歩行のふらつきなど、気になる症状がある場合は自己判断で対処せず、医療機関にご相談ください。この記事は診断・治療を目的としたものではありません。
📊 ビタミンB群(B1・B2・B6)の1日あたり摂取基準(成人18〜64歳)
| 指標 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| ビタミンB1 推奨量 | 1.1〜1.2mg/日 | 0.8〜0.9mg/日 |
| ビタミンB2 推奨量 | 1.6〜1.7mg/日 | 1.2mg/日 |
| ビタミンB6 推奨量 | 1.5mg/日 | 1.2mg/日 |
※ ビタミンB6の耐容上限量は成人45〜60mg/日(ピリドキシン相当量)。B1・B2には上限は設定されていません。
出典:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」(原典確認日 2026-07-06)|厚生労働省 食事摂取基準ページ
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Q. ビタミンB群不足の症状は?
A. 疲労感・口内炎・肌荒れ・集中力の低下などが代表的なサインとされています。
Q. ビタミンB群はいつ摂るのが良い?
A. エネルギー代謝に関わるため、朝食から日中に摂る方が多いです。
Q. どんな食品に多い?
A. 豚肉・卵・納豆・玄米・レバーなどに多く含まれます。
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